Words & calligraphy

漢字エッセイ

書家・出口胡蝶の、書とことば。

20215月18編のエッセイ

雲月

文 出口胡蝶

雲の字は、雲の中から竜の巻いている尾が少し現われている形です。
「月」はその見た目通り、三日月の形です。
一昨日、皆既月食とスーパームーンだったそうですが、その日はニュースを見ていなく後から知ったのですが、前の日の夜にマンションの階段の踊り場から見えた月に感動し、月の影のような凹凸の黒い部分を、まじまじと暫く見ていました。
そして、月の明るさで重なっている雲が透け、レースのカーテンのように見え、本当に幻想的でした。
本当にたまたまですが、「満月」と書いた作品を4日前に思い出して飾っており、たまたま月食のあった次の日に片付けていました。
今思えば、月の力の何かしらの影響があったのかも知れません(笑)

羊毛

文 出口胡蝶

私にとって、筆は自分の手の延長にいつもある大事な道具ですが、羊毛と言っている筆は、実は山羊(ヤギ)の毛です。
羊毛というと、ウールになるモコモコの羊を思い浮かべ、ストレートパーマをかけて筆になっているのかと思っていましたが、実は中国の山岳地帯の断崖絶壁などにいる、ヤギの毛で作られています。
一般に使われている筆の毛は、自然界の山羊ではなく、家畜として飼われているヤギの毛であることが多い思いますが、山羊(ヤギ)の顎の毛は長く、筆のように真っ直ぐ伸びていて、顎のひげの部分だけ使用した筆はかなり高価だと思われます。

円

文 出口胡蝶

円相の課題作品を制作していて感じたことですが、円には他の形にはない、「氣」を感じるということです。
とにかく〇という記号の意味だけではない特別な力があるように思います。
それもそのはずで、中国で古くからある「天円地方」という宇宙観の思想があります。
天は円く宇宙を表し、地方は四角「方形」大地であるという考えです。
書の世界にも同様に、殆どの漢字の形は〇と四角で囲うことができるという先生の研究をもとに、CACAのグループで取り組んでおり、それをアートにするという前代未聞の研究と制作に取り組んでいます。

美文字1

文 出口胡蝶

先日、ネットで買い物した品物が届き、個人の方から送られて来たため、手書きの文字でメッセージや送付状などが書かれておりました。
大変綺麗な字で、しばらく見入ってしまいました。
はつらつ感と熟成された渋みが同居している印象を受ける文字でしたので、60代くらいの方なのかな~、生活環境、お顔など色々と妄想が止まらなくなりました。

美文字2

文 出口胡蝶

ある年齢層、大体ですが、60代半ば以上の方の文字は日常の中で手書き文字が主流だった時代のせいもあり、いわゆる達筆な方が多いように思います。
その後、今の40代~50代では丸文字や、のりピー語などが流行り、ポップな字やペン字の横文字に適した字へと変わりました。
丸文字は、温かみと人懐っこさを感じ、ちょっとしたメモなどに書いてあると癒されますね。

美文字3

文 出口胡蝶

手書きの文字については、個性がある字も魅力的で、上手くなって欲しくないと思うこともあります。
ただ、字にコンプレックスを抱えている方も多いようです。
自分の名前は一番頻繁に書くのに上手くならないのはなぜかというと、「潜在意識」=「無意識」が自分の身体を通して書いているからです。
「顕在意識」と「潜在意識」と両極がありますが、考えて行動する力「顕在」より、無意識に動こうとする力「潜在」の方が何倍も強いので、よほど意識して上手くなりたい、変わりたいと願って訓練をしないと、字は何度書いても同じなのです。
自分の経験としても、名前は書き慣れているため、安心してしまい練習しないので下手なままということになってしまいがちです。

紙

文 出口胡蝶

今回は、紙の漢字の成り立ちではなく、紙を発明した人の話をご紹介します。
中国の後漢時代、和帝に仕えていた人物で「蔡倫」という名の宦官がいました。
物を作る技術に優れ、弓矢、馬具、剣などは第一級品で宮中でも有名でした。
そしてある時、魚網に、麻や樹皮などが絡まっている様子を見てひらめき、研究を重ね、紙を作り出しました。
そして、105年に和帝に献上したことが紙の始まりとなり、絹よりもさらに歴史的な発明へとつながって行くことになります。

続・紙

文 出口胡蝶

その後、蔡倫が発明した紙は、751年、唐の軍隊がイスラム帝国の軍との戦い(タラス川の会戦)で敗れ、捕虜となった兵士の中に紙漉き職人がいて、そこから紙漉きの技術が西方のイスラム世界に伝播されました。
それまでパピルスや、羊皮紙だった西洋にとっても革命的だったことでしょう。
それにしても唐から西洋へ伝わるまで600年以上の月日がかかっているのも、現代の世界中の情報が一瞬で伝わるスピードと桁違いですね。

満

文 出口胡蝶

心を満たすこと、「満足感」を得ることは、一日の中で幾度かあると思います。
「満」の字の漢字の成り立ちは、膝掛けの刺繍がびっしり全体に施されている様子から出来た漢字です。
中国、韓国ドラマを観ていると、皇帝貴族の衣装は必ず、超豪華な刺繍が施してあり、衣装だけ見ていても飽きないくらいです。
価値が高い絹糸を存分に纏っていることが権威の象徴だったのだろうと思います。

薫

文 出口胡蝶

この時期にふさわしい漢字は”薫風の「薫」”ではないでしょうか。
薫は、新緑の時期の爽やかで上品な風のイメージですが薫の漢字1文字で考えると、鍋か袋に入れた香草などを下から火で炙っている形です。
「墨」の字も、同じように下から火で炙って煤(すす)を集めて膠で固めて作っていることから、その状況を想像することが出来ますね。

琉球

文 出口胡蝶

中国の隋(600年ころ、日本だと飛鳥時代)が「流求国」と記したことから琉球国となりました。
「沖縄」の呼び名は、日本本土で呼んでいた名だそうです。
先日、沖縄の琉球舞踊関係のお客様からのご依頼で認定状を書きました。
「琉球」という2文字が気になり、調べてみたところ、王ヘンは、本来は、玉の意味があり玉を紐で3つ結んだ形ともされています。
中国の古代から、王様の棺は、玉で覆われていたり、王様だけが持つことが出来た宝飾品だったという話もありますので、王=玉というのは納得できます。

生

文 出口胡蝶

草や、芽が上に生える象形文字です。
先月の銀座の展覧会の時のことですが、展示している作品の上を、虫が歩いるのを発見したのです。
一瞬ドキっとしましたが、急に気温が温かくなり、虫、花、などあらゆる生命が活動し始める季節になったのだな、と感じました。

衣

文 出口胡蝶

今日、レアなお名前の方から名刺を頂きました。
衣が2か所も入った苗字でした。
埼玉と新潟に多く、日本に600人程度しか居ないお名前だとのことでした。
そこで、もっと掘り下げて調べてみました。
やはり、祖先の職業が僧尼の衣服(袈裟)の関係のお仕事だったそうです。
衣の漢字の形は、袈裟の襟元の形から出来た文字で古代中国では、色の染料が貴重なほど、高貴な位の人がその衣の色を身に付けるということが主流でした。

尚

文 出口胡蝶

先日、「楊准表記」1世紀後漢時代の石碑で(古隷)と呼ばれる法帖を見ていたら、尚の字が沢山ありました。
可愛い字だなと思っていたところ、お客さんから「尚」の字を作品にして欲しいという依頼を受け、気になって調べてみました。
「尚」は建物の形を表し、その時代、片側が流れた屋根が主流でしたが、位の高い人の家は両方が流れ屋根(三角屋根)であったことから高尚な、尊崇な意味の字として用いられるようになったそうです。

風

文 出口胡蝶

「風」の中の部分は、もともと鳳「ほう」の字で、「虫」ではなく、鳥だったそうです。
ある時期から鳥ではなく虫に変化しました。
虫は、鳥蟲篆の書体でも使われているように、虫ではなく蛇のことを言います。
龍は体は蛇だとされおり、風の中の虫は「龍」のことのようです。
今日、風が吹きつける雨の中を歩いていて思いましたが龍が風を起こし、水しぶきを巻き散らしているように感じました。
太古の人は、同じように想像して漢字に投影したのかなと、思いました。

優

文 出口胡蝶

右のつくりの下部は、「心」の下は足をクロスさせている形です。
他人の悲しみに気づき、振り向いて寄り添い同じように悲しむ人の姿です
あの太宰治も、「優」の漢字が一番好きだったと聞いたことがあります。
優秀などの字として、優れているという意味に使われますが、「優」の成り立ちの意味は、悲しい出来事の経験が多いほどより、分かることのように思います。
ある方から、「人は、片親を亡くして半人前、両親を亡くして一人前になる。」という言葉を教えられました。
とても「優」の字の意味に共感できるようになりました。

素

文 出口胡蝶

白い糸を染め汁に入れる時に束ねられた結び目の部分が白く残り、その部分を「素」と呼びました。
「書」でいう素心(素朴)の書とは、自分の中の染まっていない白(素)の部分を探してただの棒を引く感覚で書いてみる。
素の線で書いた文字は、嫌味がなくいつも一緒に居たくなる字となります。

素人「しろうと」白
玄人「くろうと」黒