Words & calligraphy

漢字エッセイ

書家・出口胡蝶の、書とことば。

20226月4編のエッセイ

胡蝶の花押

~自分だけの漢字+平仮名のハイブリッド~

文 出口胡蝶

私、胡蝶の花押デザインを制作しました!

胡蝶の花押
(胡蝶の花押)

雅号 「胡」と「蝶」の草書の一部で構成しています。

胡蝶の花押 構成要素

蝶の虫へん+胡のつくり「月」と葉の下部「木」=「ふ」と(蝶々)=「てふてふ」の「ふ」を重ね合わせました。

胡蝶の花押 構成要素
胡蝶の花押 構成要素

平安時代では漢字は、男性の文字で平仮名は女手(女文字)とされていたことに習い、女性らしい柔らかさと、凛とした線で強さを花押で表現しました。

◆胡蝶の花押ストーリー
『虫(さなぎ)が蝶となり羽を広げ風に乗り 大きく羽ばたいて、ふわっと優しく舞い降りる...』

自分にはそんな優雅さはありませんが、雅号にあやかりたいという願いを込めました。

義経の書状

~ 義経にも受け継がれている王義之の系譜 ~

文 出口胡蝶

源義経の自筆の書状と言われている2点のうちの1つ高野山金剛峯寺宝簡集の中の書体に注目してみました。部分を切り取って比較しました。

義経の自筆書状「部分」
(①義経の自筆書状「部分」)
義経の自筆書状「部分」
(②王義之字典より「事」)
義経の自筆書状「部分」
(③王義之字典より「別」)

写真の中の①と③は同じ「事」の漢字かと思われますが、①は行書、③は草書で書き分けされているのが分かります。
文頭の「高野山~」も行書が中心ですが、2行目以降段々と草書へと移行し、微かな墨量で2~3字を連綿で続けて書かれており、伸びやかな筆運びが、義経の若さと行動力の広さを感じさせます。

義経の花押

~ 花押から見える源氏パワー ~

文 出口胡蝶

前回は、源頼朝の花押を取り上げ、花押に秘められた一面を覗く事ができ、ご好評いただきましたので、もっと花押の世界に視野を広げて行きたいと思います。
今回は頼朝の弟、義経の花押に注目してみました。

義経は、頼朝の異母兄弟で、母、静御前、幼名「牛若丸」までは私も子供の頃に読んだ本で覚えていますが、様々な伝説が各地で残されている戦術に長けた凄いヒーローとして今でも人気が高い武将です。
因みに、義経が亡くなった日は、1189年6月15日ということで、偶然にも明後日だということと、空海の誕生日が6月15日で、2つの一致点に気がつき驚きました。
さらに何の因縁も無いとは思いますが 私の恩人も同じ6月15日です…(笑)

↓壇ノ浦の戦いの前年、二十六歳で書かれた数少ない若き義経の花押です。

義経の花押
(義経の花押)

源+「經」
左に大きく膨らんだ弧のように書かれ、旁の方は横画を繋げて立て、波のようなデザインです。

王義之字典より「經」 行書体
(王義之字典より「經」 行書体)

※義経の「つね」→「經」は縦糸の意味です。

頼朝の花押よりも、早く書けるということを重視しているようにも思いましたが義経の戦略家としての頭の回転の良さと、勢いのあるパワーを感じました。

つづく

頼朝の花押

文 出口胡蝶

「花押」=(かおう)という言葉はご存じでしょうか?
私は、普段から沢山のお名前を書くのが仕事ですが、整った楷書体以外は、筆耕では殆ど書く事はありませんし、絶対的に読めて、等間隔で全ての人にとって美しいと感じてもらえ 中庸で安心感のある美が筆耕での極意です。
でも、その真逆の美が「花押」のように思います。

その理由は、全く読めないサイン(署名)という事と、主に書体の中でも読むのが難しい草書体を使って名前の漢字2文字などを重ねて2文字を1文字のように見せるなどされた、世の中にたった一つのハイブリットデザインだということです。

※草書体は、中国でも隷書を崩して簡略化された画数が少なく連綿で書くことに適した書体です。
日本では「ひらがな」のもとが草書です。草書をもっと簡略化する事で、誰もが早く書けるようになりました。

源頼朝の花押で分かりやすくしてみましょう。

資料「源頼朝袖判下文」文末に見られる頼朝の花押
(資料「源頼朝袖判下文」にある頼朝の花押)

頼朝の名前の部分「束」と「月」を合体させて創られています。
まずは字典の「束」と「月」の草書に近い字を書き出してみました。

束と書いた画像
月と書いた画像
(束と月のそれぞれ書いた画像)

臨書してみましたが結局筆路が分からず、墨の掠れ具合で判断しました。 
単純に2字が合体されているのではなく、かなりデフォルメされてデザイン化されているのが分かりました。

源頼朝花押臨書
(源頼朝花押臨書)

想像ですが「~月をも束ねる~」という意味で解釈すると、平家を滅ぼし、初代征夷大将軍となった頼朝の精神性がこの花押に込められているのかな?と考えると、「サイン」という表現は相応しくないと感じました。日本人の漢字に情緒を込める気質が独自の漢字文化を作り、その中で花押が誕生したのは納得です。

つづく