Words & calligraphy

漢字エッセイ

書家・出口胡蝶の、書とことば。

20219月12編のエッセイ

空

文 出口胡蝶

「空」、「そら、くう」の漢字は、上が穴で、下が工具の「工」を組み合わせた漢字です。
穴=洞窟を表し、固い土を規矩(斧のような工具)で掘った様子が空の字になりました。
「空」そらは天井が無く、果てしないように思いますが、天と地で考えると、空はその間にあるもののような気がして来ます。
ちなみに西洋では、「岩窟の聖母」という絵画があり、ダ・ヴィンチは、女性の子宮を象徴するとされる洞窟を描く事で、マリアが処女のままイエスを身籠った事を暗示しているとされています。
私がモンゴルで岩画を見に洞窟に入った時も、天体宇宙空間のように感じ、真っ暗な岩の壁に描かれた動物の絵は 星座のようにも思えましたし、同時に子宮にも似た感じがしたのを思い出しました。

室

文 出口胡蝶

「室」は、ウ冠の中に矢が突き刺さって物が留まっている様子を意味しています。
ひと昔前は、冷蔵庫も無かったので「室」むろでは食料などを保存したりしました。
〇〇室としては、人が滞在するスペースのことでもあることから、ウ冠がある漢字は、建物の空間を意味する漢字なのが分かります。

宙

文 出口胡蝶

「宙」のウ冠の中にある「由」は酒の壺の形です。
意外と現実的な大きさのもので表現されておりますが、「壺」=宇宙とも言われ、中国には古くから「壺中天」という言葉があります。
壺中天とは、別世界、別天地のことで、この世の憂さを忘れる楽しみ、壺の中を宇宙空間に例え、世間から離れた世界、酒を呑んで、良い気分になって別世界を見ている状態のことを言います。
ちなみに、茶室も宇宙空間であるというのを聞いたことがあります。
どんなに小さな世界でも、宇宙の縮図として考えることができるので、自分の身の周りを見渡して想像すると面白いかも知れません。

和

文 出口胡蝶

先日、ご注文で「和敬清寂」”わけいせいじゃく”を揮毫させて頂きました。
あらためて、その意味を自身に多少なりとも刻もうと思い、一字一字を調べてみました。
成り立ちは、禾と口とを組み合わせた形。
禾は軍門に立てる木の標識で 口は神への祝詞を入れる器のため、軍門の前で、戦争をやめ平和を誓うことを「和」といいました。
「敬」は羊の頭をした人、古代の中国で、”いけにえ"となっていた姜人という種族を表した形から生まれた漢字です。
「和敬」は心を穏やかにして慎み、相手を敬うこと。
茶道で重んじる精神の一つで、千利休が説いた精神論を、後の時代に「和敬清寂」という4文字でまとめられたという説があります。

清

文 出口胡蝶

もとの字は三ずい「水」と「青」から作られ、丹を材料として作られる青でその色調は清らかで、渓流のように澄んだ水を表した字です。
清らか、清める、清々しいけがれが無い状態をいいます。
今のご時世、何をするにもまずは、清浄にしていることが一番と考える今のご時世にとても当てはまる漢字ですね。

寂

文 出口胡蝶

わびさびの"寂び"の方の意味で、茶道の重要な教えです。
何も無いようであるが、満ち足りた豊かな心境のことを言い、茶道具を指す場合は、古くて枯れているほうが、飾り立てた新しい物よりも美しいとする美意識のことを言います。
具体的に意味の説明が難しいですが、とても琴線に触れる大好きな言葉の一つです。

◆まとめとして、日本人らしい意味が濃縮されている言葉だと思いました。
簡単そうで、きちんと皆が実行するのは難しく、難しいからこそ、茶道の心得として約500年前から学ばれて来た言葉なんだな、と感じました。

「和」:心を合わせること「敬」:お互いを敬いあうこと
「清」:清らかであること「寂」:寂びた美であること

三 ①

文 出口胡蝶

「三」の漢字は、3本の木を重ねた形で単純な形ではありますが、とても漢字の中でも重要な意味を持ち、漢字においてシャーマニズムの代表でもあります。
説文では、一は「天」、二は「地」、三は、天地人の数として聖なる数とされ、優れたもの、人をまとめて三を付けて表現する言葉が沢山あります。
ちなみに、「川」や「山」も三を縦にした形で、他にも3本の線が組み込まれている字は沢山あります。
そしてピラミットも確かな関係性は分かりませんが三角形です。
三世代、三王朝、三大家、日本の三筆(嵯峨天皇、橘逸勢、空海)
三蹟(藤原行成、小野道風、藤原佐理)

三 ②

文 出口胡蝶

三の数字はなぜおめでたい数字なのかというと、まず素数(1とその数字でしか割り切れない数字のこと)として三は、素数の最小の数字であること。
また、中国の道教思想で、陰陽道では陰は偶数、陽は奇数なので一以外の三は陽の数字の中で、最小の数字であり、おめでたい数字ということになります。
日本でも、伊勢神宮の神様の食事もお盆にあるご飯が三膳、お神酒も三盃が供えられます。
道教との繋がりは分かりませんが三へのこだわりがあるのは間違いないようです。

縦

文 出口胡蝶

糸に従うで縦になります。
行人偏は十字路の左半分で右側は、同じ左に向いた人が二人並び前の人に従っている形から出来た漢字です。
そして糸へんは、織物の縦糸を示しています。
意味としては南北の方向に向かって突き抜ける。
ゆったりと落ち着く、など縦の意味は、大らかないい意味があります。

横

文 出口胡蝶

横は、扉の木に用いる横の木から、横という漢字が生れました。
横は、「曲げる、妨げる、端から」という意味があり、横はどちらかというと不正の意味に使われています。
横領、横着、横暴、よこしま(邪)=横になっている様子から(よこしま)になりました。

縦横

文 出口胡蝶

周りを見渡すと全てが縦と横で表現できるような気がします。
縦横は、漢字の縦画横画をはじめ、木々の枝葉、そして1日の与えられた時間が縦糸だとして横糸は、朝起きてから、仕事をし、食事を作り、散歩に出かけたり、人に会ったりと その人なりの行動が繰り返し織られていき、少しづつ模様が出来ていく人生のようにも思えます。
あと、空の景色にある縦に高い建物が縦糸で、たなびく雲が横糸のようにも見えます。
余談ですが、私の玄関先から遠くに見えていたスカイツリーが、目の前に高層ビルが建てられ、ついに昨日、隠れてしまいました。
この夏一番の悲しい出来事でした。