頼朝の花押

文 出口胡蝶

「花押」=(かおう)という言葉はご存じでしょうか?
私は、普段から沢山のお名前を書くのが仕事ですが、整った楷書体以外は、筆耕では殆ど書く事はありませんし、絶対的に読めて、等間隔で全ての人にとって美しいと感じてもらえ 中庸で安心感のある美が筆耕での極意です。
でも、その真逆の美が「花押」のように思います。

その理由は、全く読めないサイン(署名)という事と、主に書体の中でも読むのが難しい草書体を使って名前の漢字2文字などを重ねて2文字を1文字のように見せるなどされた、世の中にたった一つのハイブリットデザインだということです。

※草書体は、中国でも隷書を崩して簡略化された画数が少なく連綿で書くことに適した書体です。
日本では「ひらがな」のもとが草書です。草書をもっと簡略化する事で、誰もが早く書けるようになりました。

源頼朝の花押で分かりやすくしてみましょう。

資料「源頼朝袖判下文」文末に見られる頼朝の花押
(資料「源頼朝袖判下文」にある頼朝の花押)

頼朝の名前の部分「束」と「月」を合体させて創られています。
まずは字典の「束」と「月」の草書に近い字を書き出してみました。

束と書いた画像
月と書いた画像
(束と月のそれぞれ書いた画像)

臨書してみましたが結局筆路が分からず、墨の掠れ具合で判断しました。 
単純に2字が合体されているのではなく、かなりデフォルメされてデザイン化されているのが分かりました。

源頼朝花押臨書
(源頼朝花押臨書)

想像ですが「~月をも束ねる~」という意味で解釈すると、平家を滅ぼし、初代征夷大将軍となった頼朝の精神性がこの花押に込められているのかな?と考えると、「サイン」という表現は相応しくないと感じました。日本人の漢字に情緒を込める気質が独自の漢字文化を作り、その中で花押が誕生したのは納得です。

つづく

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